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​腋窩多汗症・腋臭症

ワキの悩みについては、臨床的にはまず「汗の量の問題」と「臭いの問題」に分けて考える必要があります。

汗の量が過剰で日常生活に支障をきたす状態が多汗症です。一方、ワキ特有の臭気が問題となる状態が腋臭症、いわゆるワキガです。両者はしばしば同時にみられますが、病態生理学的には同じものではありません。

多汗症では、主にエクリン汗腺からの発汗制御が問題になります。腋臭症では、主にアポクリン汗腺からの分泌物、皮脂、皮膚常在菌、局所の湿潤環境、衣類との相互作用などが関与します。

したがって、治療にあたって、

・お悩みの内容・特にストレスに感じていることは何か(汗の量、臭い、あるいは両方)?そしてのその程度は?

・治療に伴うダウンタイムをどこまで許容できるのか?

・1回の治療で長期的な効果を望むのか、あるいは短期的な効果の治療を繰り返す形がいいのか?

等を明確にし、対応していくことになります。

原発性局所多汗症

原発性局所多汗症とは、明らかな基礎疾患や使用薬剤等の原因がないにもかかわらず、特定の部位に過剰な発汗が生じ、日常生活に支障をきたす状態です。

腋窩、手掌、足底、頭部・顔面などに生じることが多く、腋窩に生じるものを原発性腋窩多汗症と呼びます。

エクリン汗腺は全身に広く分布し、主に体温調節に関与する汗腺です。汗腺は交感神経系に支配されていますが、通常の交感神経節後線維とは異なり、エクリン汗腺では主にアセチルコリンを神経伝達物質とするコリン作動性線維が関与します。

原発性局所多汗症では、汗腺数そのものが病的に増えているというより、発汗中枢から交感神経節後コリン作動性線維、エクリン汗腺に至る発汗制御系の機能亢進、あるいは反応性亢進によって発汗量が過剰になると考えられています(日本皮膚科学会の2023年版ガイドラインでは、原発性局所多汗症患者の汗腺は健常者と比べて汗腺数や大きさなどの組織病理学的差異はないとされ、発汗機能亢進として整理されています)。

診断では、6か月以上持続する局所性の過剰発汗があり、若年発症、左右対称性、睡眠中の発汗停止、週1回以上の発汗エピソード、家族歴、日常生活への支障などの特徴を確認します。重症度評価には、Hyperhidrosis Disease Severity Scale(HDSS)等が用いられます。

ただし、全身性の発汗、急な発汗量の増加、発熱、寝汗、動悸、体重減少、薬剤変更などを伴う場合には、甲状腺疾患、感染症、神経疾患、内分泌疾患、薬剤性発汗などの続発性多汗症を除外する必要があります。

腋臭症

腋臭症は、アポクリン汗腺由来の分泌物が関与する臭気の問題です。

アポクリン汗腺は、腋窩、乳輪、外陰部、外耳道周囲など限られた部位に存在し、思春期以降に活動性が高まります。アポクリン汗腺から分泌される成分には脂質や蛋白成分が含まれますが、分泌物そのものが直ちに強い臭気を発するわけではありません。
 

腋臭症における臭気は、アポクリン汗腺分泌物、皮脂、角質、汗、皮膚常在菌が相互に関与して形成されます。皮膚表面のCorynebacterium属やStaphylococcus属などの細菌が、無臭または低臭性の前駆物質を分解することで、3-methyl-2-hexenoic acid、3-hydroxy-3-methylhexanoic acid、3-methyl-3-sulfanylhexanolなどの臭気関連物質が生成され、腋窩特有の臭いが生じます。つまり、腋臭症は単に「汗が臭う」状態ではありません。発汗量が多いとワキが湿潤し、臭気が増強されやすくなりますが、多汗症と腋臭症は同義ではありません。
 

腋臭症の重症度は、アポクリン汗腺の数や分泌能、皮脂腺活動、皮膚常在菌叢、ワキ毛の状態、局所の湿潤環境、衣類の素材や通気性、生活環境など複数の要因に左右されます。

そのため、治療にあたっては、単に発汗量を抑えるだけでは十分ではない場合があります。つまり、アポクリン汗腺に対する介入のみならず、皮膚常在菌や局所環境への対応、衣類・生活環境の見直し等を組み合わせて考える必要があります。

​遺伝・体質

腋臭症は遺伝的素因の影響が大きい疾患で、ABCC11遺伝子の関与が強く示されています。アポクリン汗腺自体は出生時から存在しますが、思春期前には機能的に不活発であり、第二次性徴に伴う性ホルモンの影響により分泌活動が高まります。そのため、腋臭症はワキ毛が生え始める思春期以降に自覚されることが一般的で、若年成人期にかけて問題となる傾向があります。その後は加齢に伴うアポクリン汗腺活動の低下により、症状が軽減することがあります。

なお、成人後にABCC11遺伝型そのものが新たに変化して、典型的な腋臭症が突然発症することはありません。ただし、発汗量、皮膚常在菌叢、皮脂、体重の変化、衣類や環境の影響等により、成人後に臭いを自覚するようになることはありえます。

遺伝に関する詳細な説明は最後にまとめました。ご興味がある方はご覧ください
​多汗症・腋臭症の治療

多汗症に対する治療と腋臭症に対する治療は、それぞれターゲットが異なります。

エクリン汗腺は主に交感神経系のコリン作動性線維により制御されており、アセチルコリンを介して発汗が誘導されます。そのため、ボツリヌストキシン注射や抗コリン系外用薬は、エクリン汗腺からの発汗を抑える治療として有効です。ボツリヌストキシンは神経終末からのアセチルコリン放出を抑制し、抗コリン系外用薬は汗腺のムスカリン受容体を介した発汗反応を抑制します。

一方、腋臭症の本質は、アポクリン汗腺分泌物に含まれる揮発性臭気成分の前駆体と、それを分解する皮膚常在菌との相互作用にあります。アポクリン汗腺の分泌制御はエクリン汗腺とは異なり、古典的にはアドレナリン作動性刺激やカテコラミンの関与が重視されてきました。ただし、ヒト腋窩アポクリン汗腺はカテコラミンだけでなく、コリン作動性刺激にも反応し得ることが報告されており、受容体制御は単純な「アドレナリン作動性か、コリン作動性か」という二分法では説明できません。

したがって、腋臭症に対して、ボツリヌストキシン注射や抗コリン系外用薬が「理論的に全く効果がない」と断定することはできません。発汗量を減らすことで腋窩の湿潤環境が改善し、皮膚常在菌による分解や臭気の拡散が抑えられ、臭いの自覚が軽くなることもあります。実際に、ボツリヌストキシン注射療法後に腋臭の軽減が報告された研究も存在します。

しかし、これらの治療の主たる標的は、あくまでエクリン汗腺を中心とするコリン作動性発汗です。腋臭症の原因となるアポクリン汗腺分泌や臭気の前駆物質の産生、あるいはアポクリン汗腺組織そのものに対して、直接かつ安定的に介入する治療とは位置づけられません。

つまり、ボツリヌストキシン注射や抗コリン系外用薬は、多汗症に対しては有効な治療選択肢ですが、腋臭症に対しては間接的な臭気軽減効果にとどまります。腋臭症の長期的な改善を目指す場合には、アポクリン汗腺へに直接介入する治療、すなわち外科的処置による汗腺組織の物理的除去、またはミラドライを用いた汗腺の熱破壊による治療を選択肢として検討します。

ボツリヌストキシン注射は、コリン作動性神経終末からのアセチルコリン放出を抑制し、エクリン汗腺からの発汗を減少させる治療です。

原発性腋窩多汗症に対しては、比較的確立した治療選択肢であり、治療時間が短く、ダウンタイムが少ないという利点があります。汗腺そのものを切除・破壊する治療ではないため永続性はなく、通常3~6か月で効果は消失し、定期的な治療が必要になります。

また、発汗量が減ることで臭いが軽くなることはありますが、ボツリヌストキシン注射はアポクリン汗腺に対する作用は限定的ですので、腋臭症に対する治療としては限界があります。

一時的にワキ汗を抑えたい方、夏季だけ症状を軽くしたい方、ダウンタイムを許容できない方、ミラドライや手術までは希望しない方には有用な選択肢です。

ミラドライは、5.8GHzのマイクロ波を用いて、腋窩の汗腺が存在する真皮深層から皮下組織浅層に熱作用を加え、症状の改善を図る治療です。

日本国内では、重度の原発性腋窩多汗症を対象とする医療機器として承認されています。

一方、米国ではFDA 510(k) clearanceを取得しており、原発性腋窩多汗症の治療に用いた場合、腋臭をも軽減し得る旨の記載があります。解剖学的にも、多汗症の原因であるエクリン汗腺、腋臭の原因であるアポクリン汗腺ともに同等の深さにあり、ミラドライ治療により同時に熱破壊されることが確認されており、臨床上も発汗量の減少および臭気の軽減が認められます。

ミラドライは汗腺組織に不可逆的な熱損傷を加える治療のため、ボツリヌストキシン注射療法のような一時的な発汗抑制とは異なり、長期的な効果が期待できます。ただし、汗や臭いが完全になくなるわけではなく、1回治療による汗・臭いの減少率は約70%程度です。

​腋臭の遺伝について
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腋臭症、いわゆるワキガには、明確な遺伝的背景があります。

現在もっとも強く関与すると考えられているのは、ABCC11 遺伝子の rs17822931、すなわち 538G>A 多型です。この多型は、ABCC11 蛋白の p.Gly180Arg、通称 G180R 変異として表記されることもあります。

この多型は、耳垢の乾型・湿型と強く関連しており、一般に AA 型では乾性耳垢、GA 型または GG 型では湿性耳垢を示します。湿性耳垢に対応する G アレルは、腋窩アポクリン腺の分泌機能、および腋臭の前駆物質の分泌と強く関連しています。

ただし、腋臭症を単純に遺伝子の有無だけで説明することは不適切です。

ABCC11 は腋臭症の主要な遺伝的素因ですが、実際の臭いの強さは、アポクリン腺の数・大きさ・分泌能、皮膚常在菌叢、皮脂、腋毛、性ホルモン、衣類、環境等によって修飾されます。

したがって、腋臭症は 遺伝的背景を持ちながらも、臨床的な表現型には個人差がある形質と考えるべきです。

出生時から決まっているのは、ABCC11 を含む遺伝的素因です。一方、腋臭として自覚される臭いは、通常、思春期以降にアポクリン腺の活動が高まることで顕在化します。そのため、思春期以前の小児では、典型的な腋臭症として問題になることは通常ありません。思春期以降に遺伝型そのものが新たに生じることはありませんが、発汗量、皮膚常在菌、体重変化、ホルモン、生活環境などによって、臭いの自覚や程度が変化することはありえます。

遺伝形式については、湿性耳垢は乾性耳垢に対して顕性に表現される形質です。そのため、腋臭症のある方の多くでは、両親のいずれか、あるいは両方が、湿型耳垢に関連する ABCC11 の G アレルを保有している可能性が高いと考えられます。ただし、G アレルを持っていても、すべての人に臨床的に強い腋臭が出るわけではありません。また、親がヘテロ接合の場合には必ず伝わるわけではない​ありません。

臨床的には、腋臭症の方の大多数は湿性耳垢を有します。一方で、湿性耳垢であることは腋臭症の強い手がかりではありますが、それだけで腋臭症の重症度や治療適応が決まるわけではありません。

そのため、腋臭症の診断では、耳垢の性状、家族歴、発症時期、臭いの客観的評価、発汗量、患者様本人のストレス、生活環境・対人関係を総合して判断する必要があります

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